野尻湖周辺てくてくガイド

渡辺哲也

はじめに

 昨年の春、2004年4月に「野尻湖周辺てくてくガイド」という地図付きの簡単なパンフレットを信濃町教育委員会生涯学習課で制作しました。パソコンで作成し、役場の印刷機を使って印刷しただけのもので、A3サイズ白黒片面刷りです。野尻湖ナウマンゾウ博物館と公民館野尻湖支館に、無料配布のパンフレットの一つとして置いてもらっています。

 ここではこのパンフレットを作った経緯やその内容についてご紹介させていただきます。

制作のきっかけ

中勘助石碑

 私は信濃町教育委員会で文化財を担当させていただいていますが、少し前までは、住民の皆さんは文化財に対して関心が薄いと常々感じておりました。しかしある時、このことは住民の側に問題があるのではなく、情報を発信してこなかった行政の側にあるということにふと気付きました。そして、多くの情報を発信していくことが文化財に対する理解、保護へとつながっていくと考えるようになり、具体的に着手した最初の仕事がこの野尻湖周辺文化財マップをつくることでした。野尻には多くの文化財が残され、かつ、観光地であるにもかかわらず、それらを訪ね歩く方が少ないように感じられていたからです。例えば公民館野尻湖支館には中勘助の詩碑と、中勘助を偲んだ清水基吉の句碑があります。地元には中勘助が野尻湖に浮かぶ琵琶島に一人こもって一夏を過ごし、米がなくなれば白い旗、味噌がなくなれば赤い旗をふって食料を乞うたという話が残されていますが、道案内がなければこれらの石碑へたどり着くことは難しいでしょう。残念ながら碑の前に立つ人影をあまり目にしません。

野尻城のこと

 文化財はその地域の歴史の中で生まれてきます。野尻には琵琶島城跡、野尻城跡など中世の城跡がありますが、それらは野尻という信越の国境に位置する地理的な環境によってつくられてきました。

 戦国時代の永禄7年(1564)には武田軍が野尻島(琵琶島)を占領したが、まもなく上杉軍が奪回したとの記録があり、そうしたことを裏付けるように琵琶島には今でも空堀の跡が残っています。宇賀神社へ参拝する際に島の中央で一度階段を下り、再度階段を上るようになっているのはこのためです。

 一方、野尻湖北岸に並行する尾根上に位置する野尻城(野尻新城)は、尾根を断ち切る空堀が幾重にもめぐらされていて、戦国時代末に上杉方によって造られたものと考えられています。野尻の城跡には忠誠心の厚い城主宇佐美定行の伝説が残されています。定行は上杉謙信に謀反の疑いをかけられた長尾政景を野尻湖に誘い、政景に組みついて共に野尻湖に没したと伝えられています。定行の墓は琵琶島にあり、また、政景の墓と伝えられる墓石は真光寺にあります。政景の墓石は野尻湖北岸の路傍にあったのですが、その前を通ると落馬するというので真光寺に移されたと言われています。

芭蕉の句碑のこと

芭蕉句碑

 信濃町で俳人といえば小林一茶ですが、野尻上町には江戸時代に建てられた松尾芭蕉の句碑があります。野尻宿の南端付近の高台に、芭蕉の130回忌にあたる文政6年(1823)に一茶の門人によって建てられました。一茶が亡くなる4年前にあたります。この句碑について一茶が記したものはありませんが、おそらく一茶はこれを見ていたことでしょう。一茶の里に、一茶も見たであろう芭蕉の句碑が残されていることも不思議な感じがします。

 

北国街道のこと

 野尻は江戸時代に整備された北国街道の宿場です。参勤交代で加賀金沢藩などの大名が通ったり、
[あとどもはかすみ引きけり加賀の守 一茶]

佐渡からの金銀の運搬に使われたりしました。
[梅雨晴や佐渡のお金が通るとて 一茶]

安養寺には御金荷を一晩保管するための御金蔵があり、野尻、柏原、古間宿の人々が警護にあたりました。また、高田藩士鈴木魚都里が記した高田から江戸日本橋までの道中記『東都道中分間絵図』には野尻宿の北側にソバキリ新田が描かれ、野尻宿にはソバキリ名物と記されています。
[そば所と人はいふ也赤蜻蛉 一茶]

一茶の句とともに、一茶が見た風景を思い浮かべながら旧北国街道を歩いてみるのも楽しいと思います。

ぜひ、文化財めぐりを

 野尻は日本海側から内陸部へ向かう交通の要所にあり、また、野尻湖という水辺を有することから、古くはナウマンゾウがいた5万年も前から人々の痕跡が残されています。そのため歩いて回ることのできる狭い範囲の中に多くのスポットがあり、このパンフレットでも22ヶ所を紹介しています。

 旅する人は非日常を求め、旅先ではそこでしか見られないもの、味わえないものに出会えたときに満足度が高まるものです。その地にしかないものとはその地の歴史であり、それが目に見えるものとして残されているのが文化財です。これまで身近にあった文化財にあまり目を向けてこなかったという反省から、文化財を中心に紹介したのがこのパンフレットです。これらの文化財から、地元の方には地域の歴史を再認識していただくとともに、ここを訪れた方にはここにしかない歴史や風土を感じとってもらえるものと思います。このパンフレットを片手に、野尻湖周辺の文化財を訪ね歩いていただければたいへんありがたく思います。今後もこのパンフレットをより良いものに改訂していきたいと思っておりますので、ご意見やご要望などがございましたらお知らせいただければ幸いです。)

 

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