2005年12月冬 ● 編集発行 ● 野尻湖フォーラム
 
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野尻湖の町づくり ―計画と実践の歴史を振り返って―

近藤洋一


 今までに、野尻湖地域の活性化をめざして、様々な振興計画が作成されてきました。今一度、この計画の歴史とそれがどのように実施されてきたかを振り返ってみることも無駄ではないように思います。それぞれの報告書をもとにその概要について見てみましょう。

○ 信濃町観光診断調査及び計画報告書 ー1978 環境デザインフォーラム

 昭和53年から始まった調査研究の報告書です。はしがきにはこの目的について下記のように書かれています。「この報告書は、昭和53年1月21日に信濃町の委託により、信濃町の観光についての総合的な診断をし、調査及び計画を立てようとするものである。」

 この環境デザインフォーラムという組織は、代表委員が吉阪隆正(早稲田大学教授)、委員として波多江健郎(工学院大学教授)池原義郎(早稲田大学講師)宮本忠長(設計事務所長)などの方々によって進められたものです。

 細かい内容を紹介する紙面はありませんが、第6章の目標と実践 短期計画から長期計画へ という項目で、具体的な計画が提言されています。野尻だけでなく、信濃町全体としての提言ですが紹介しましょう。

<短期計画>
1 一茶めぐりコースの整備
2 マッキュラム(マッケンジー)記念教会の建設
3 史跡、文学散策、遊歩道の整備
4 地元産業の振興、カマ→登山用品(金具)→付属用品へと伸びてゆく
5 野尻、黒姫美化財団を作る
6 運動施設の充実
7 スキー場の充実
8 登山道の整備
9 国道バイパスの新設
10 飯山、戸隠線(主要地方道)の部分的連絡整備と班尾高原の開発
11 黒姫駅と野尻湖の連絡道路整備
12 国道l8号線と野尻湖の連絡道路整備
13 ナウマン博物館の建設
14 湖岸整備
15 湖岸駐車場の移転による公園化
16 ヨット、カヌーハーバーに関すること
17 苗名の滝とヘルスサーキットの設置
18 霊仙寺山麓乗馬コースの設定整備
19 広域史跡めぐりの整備(善光寺→戸隠→野尻湖一茶→北斎館)
<中間期計画>
20 景観規制
21 美観税を設ける
22 特別自由地区の設定
<長期計画>
23 モノレールの設置
24 関越自動車道路との連絡整備
25 黒姫駅及び周辺の整備
26 国鉄信越線の格上げ
27 新駅の開設(仮称野尻湖駅)
28 新駅周辺の整備
29 黒姫駅と新設駅間の道路新設
30 人口及び観光客人込の増による都市機能施設の整備拡充

 短期計画については、現在までにいくつかは実施されてきています。今の時代にそぐわない提言も当然ながらありますが、参考になるものもあるのではないでしょうか。信濃町の位置づけの中で、カナダ人宣教師マッケンジー(報告書ではマッキュラム)さんの言葉が引用されています。「きれいな湖に又周囲の山々をみたら、たまらなく好きになりました。軽井沢にも、浅間山にもおさらばしなければならなくなりました」。野尻の魅力の原点はまさにこの点にあるのでしょう。

○ 信濃町長期振興計画―美しい自然のなかで 人々が活力に満ち生活する町―
 昭和55年〜昭和64年 信濃町

 信濃町では、長期振興計画を策定しています。昭和54年12月に発行されたこの計画では、観光としての野尻湖の問題点を下記のように指摘しています。

1) 野尻湖は、夏型の観光地であることは現状でも述べたとおりであるが、一番の課題は四季を通じた観光地への移行である。
 旅行の形態が家族、小グループ化してきた今日、本当の野尻湖の良さを知ってもらう必要がある。
 それには、春、秋の宣伝が弱すぎ過去において野尻湖は、国際避暑地として宣伝され、避暑地すなわち夏の宣伝に力が注がれてきた。
 今後、夏のみならず、春、秋の宣伝を強力に推進する必要がある。

2)野尻湖に来た観光客の足を止めておく施設が足りない。したがって、他の観光地とを結ぶ観光ルートの一点として、「自然の風景を見る」観光地として、通過地となっている。

3)観光施設が野尻湖西岸に集中しているため、騒音と混雑で野尻湖全体が俗化しているように誤解を招いている。東岸の開発が遅れている。

4)駐車場が狭陰である。

5)湖畔の見遠しが悪く、展望が悪い。

6)スポーツ施設(合宿施設)がないため、スポーツ系の合宿の誘致ができない。

7)野尻湖も年々汚染されつつあり、今後は浄化対策に力を注ぐ必要があり、公共下水道の建設が強く望まれるところである。

8)周遊道路は、自動車、サイクリング、歩行と共用になっており、幅員が狭くカーブが多いため危険である。このため自動車道と別に遊歩道の設置が必要である。

 昭和54年における認識として興味深いものがあります。具体的な目標としては、先の観光診断調査を踏まえて、ほぼ同じ内容が掲載されていますので、繰り返しません。

○ 人と自然のふれ愛の町 第3次 信濃町長 期振興計画
 基本構想 平成2年〜平成11年度 信濃町

 第3次振興計画は平成2年に公表されました。計画の基本的な考え方として、地域の特性を生かした個性ある町づくり、が掲げられています。そして、施策として、以下のような内容が書かれています。

1.

  1. 観光客の誘致
     宣伝印刷物、テレビ、キャプテンシステム、屋外文字放送等、新しいメディアの活用、観光キャラバン隊による宣伝等、効果的な誘客宣伝を行う。また、JR各社やエージェントと連携し、誘客を行う。
  2. 受入れ体制の確立
    ア 観光客に対する接遇態度の向上は、観光の町として欠くことのできない要素である。観光関係者はもちろん、町全体が人情味豊かな接遇態度で臨めるよう啓発を図る。
    イ 観光案内の体制充実、観光客の動向調査及び観光関係者の研修を積極的に実施する。案内看板はイメージを統一できるよう整備促進する。
観光地

2.観光資源の開発・活用

  1. 観光地土地利用計画の設定
     町の観光開発を進めるにあたっての基本として、観光地の土地利用計画を設定する。
  2. 観光拠点づくりの推進
     土地利用計画に基づき、野尻湖・黒姫高原・一茶の里に加え、斑尾東急リゾート、さらに古間・富士里地区の資源開発を行い、相互に連携し、有機的に結びついたネットワークづくりを推進する。
  3. 広域観光の確立
     平成9年共用開始予定の上信越自動車道問通に向けて、信越高原を含めた北信濃地区の広域ネットワークを結ぶ拠点となりうる地域づくりを行う。
  4. 観光行事の活用
     町内で行われる各種観光行事の充実、強化と併せ、町内に埋もれている優れた文化遺産の再発掘を行い、伝承し、観光振興を図る。

3.観光・レクリエーション施設の整備

  1. 観光地周辺整備
    ア 野尻湖周辺整備土地利用計画に基づいて、野尻湖一周遊歩道等の整備を促進する。
    イ ナウマン象をはじめ、埋もれている歴史、文化を生かした史的観光の整備促進を図る。 以下は省略。

 このように具体的な計画の内容を見てくると、時代の違いはもちろんありますが、提言の中身についてそのコンセプトは同じ土台にたったものであることがわかります。一方まったく違った観点から見直した答申書があります。野尻湖検討委員会の答申です。以下にその前文を紹介します。

○ 野尻湖の自然保全と住民生活・観光事業との将来の在り方について(答申書)
 平成10年8月28日 野尻湖検討委員会

前文

 野尻湖は雄大な山々を背景とし、清らかな水を湛えた湖面は、豊かな森林に覆われた数々の岬に囲まれて、今日なお明媚な自然景観を保っている。しかし、近年、人々による湖の利用が進み、観光や利水のための人工施設や環境への負荷が増すにつれて、次第に自然環境の破壊、水質の悪化、景観の損傷等が増大し、この湖の優れた特性と魅力は、まさに喪失の限界に近づきつつある。今こそ町民と町行政が一体となって、このような傾向に終止符をうち、将来に向かって、信濃町のかけがえのない資産である野尻湖の、自然環境と景観を保全するとともに、利用のあり方を再検討すべきときである。このような努力は、環境に対する価値観が大きく変化しつつある現在の社会においては、広範な人々に理解され、支持されるであろう。

保護・保全の重点  野尻湖における自然の保護・保全の重点は、多くの急峻な岬に囲まれた複雑な地形、水位と水質、岬と流域を覆う森林、水辺と水中の植生、これらに依存する多くの野生動物、およびこれらすべてによって形成される固有の自然景観の保存と復元である。さらに、この湖に固有の歴史的遺産の保存とその賢明な活かし方を考えることも重要な課題である。

保護・保全の意義  野尻湖の自然保護と保全は、生息する野生生物のためばかりでなく、ここに住む人々や、ここを訪れる人々にとっても、重要な意義を持つ。野尻湖がこれまで持っていた魅力は、将来にわたっても保たれ、強められるであろう。さらに近年は、エコ・ツ−リズムの勃興など、人々は自然と親しむことによる心の豊かさを求めており、野尻湖の役割はいっそう大きくなっている。したがって野尻湖の自然環境の保全は、周辺の地域産業の活性化とその持続的な発展にも寄与するものである。

利用の方向  野尻湖の利用は、人と自然が共存する方向を目指さねばならない。そのためには従来の人工施設を再検討して、不適当なものは改良または廃止し、一方、新たに必要な施設は設置しなければならない。その際、周辺地域の自然環境に損傷を与えない構造と工法を採用することはいうまでもない。

保全と利用の計画  上記の事業は、計画的に行われねばならない。これまでの利用の多くは、事業者の恣意と成り行きにまかされがちであったことが、なし崩しの自然破壊と人工施設の乱立をもたらしたのである。本答申は、今後の保全と利用の原案を提案するが、町がその実施計画を策定する場合には、住民および関係者と徹底的に話合い、その合意を得なければならない。

条例の制定  野尻湖の将来のあり方についての基本的な方向は、町条例によって規定され保証されることが必要である。本答申は、条例に盛られるべき内容について提案するが、条例の制定は、もちろん町民の討議と合意に基づかねばならない。また、今日なお、野尻湖において不法行為があとを絶たない現状に鑑み、ひとたび合意によって成立した条例は、遵守されねばならず、それに違反する行為には、厳しく対処されなければならない。 本答申は大別して次の5項目からなる。

I 自然の保全

  1. 野尻湖の直接集水地域を5つに地域区分(ゾ−ニング)し、それぞれの特性に応じた管理方針を設定する。
  2. 多様な生物相の回復策を講じる。
  3. 水質の保全と水位の変動幅の縮小を図る。

II 人と湖のつきあい方

  1. 小さな湖である野尻湖に、無制限な負荷を負わすことは出来ない。野尻湖ならではの限度をわきまえた利用を図る。
  2. 船舶の大きさと総量、それによる湖面の利用を規制し、安全で快適な利用環境を作る。
  3. 現存の桟橋を整理・統合し、公共施設・共同利用の桟橋を設け、適正な利用を図る。

III 湖畔の町づくり

  1. 野尻区
    (1) 湖畔に人々が自然と親しむ諸施設(公園、駐車場、遊歩道など)を整備・拡充する。
    (2) 既存の市街地を自然と調和した魅力ある町につくり変える。
    (3) ナウマンゾウの発掘遺跡を保存する。
  2. 菅川区
    (1) 湖畔を自然と調和したレクリェ−ション基地として整備する。

IV 広報・普及活動

  1. 野尻湖情報センタ−を設置し、情報の提供を充実する。
  2. 野尻湖で遊ぶ人々が相互に守るべきル−ルを設け、普及を図る。
  3. ゴミ対策の徹底を図る。

V 制度と組織

  1. 「野尻湖憲章」と「野尻湖条例」を制定する。
  2. 野尻湖条例の趣旨に沿って野尻湖の利用を日常的に管理する組織として「野尻湖管理機構」(仮称)を設置する。
  3. 野尻湖の生態学的調査・研究を行い、自然保全に寄与するための「野尻湖研究所」を設置する。

 基本的な視点をしっかり見据えて、その実現のための方策を提言しています。

 以上さまざまな視点から野尻湖をどのようにしていくか、という報告書を見てきました。よくこのような報告書というものは、「絵にかいた餅」でほとんど役に立たない、と言われます。はたしてそうでしょうか。報告者は、その時代その時代の情勢をまとめ、問題点を解明しており、それぞれの住民の意見を反映したものということがいえます。

 基本的な考え方で、自然と歴史を大切にした町づくりが言われていますが、その具体的な方向性というのは3つのタイプがあるようです。

  1. 自然と歴史の遺産を、ただの宝として見せ物とする町
  2. 自然と歴史の遺産に、サービス面をつけくわえ付加価値をつける町  
  3. 現在の生活の中で自然と歴史の遺産を生かし、より自然を豊かにしながら、新たな歴史遺産を発掘し成長する町

 1は、派手な博物館や施設を建設し、多くの見学者を迎えている町づくりで、今までにもっとも多いパターンでしょう。ただし、はじめはいいのですが、成長することがないと次第に色あせていきます。

 2は、豊かな自然を利用した別荘地や避暑地として発展してきた町で、軽井沢や野尻湖はこのパターンです。どのような付加価値を付けていくか、が課題です。今までの報告書はこのパターンに沿ったものがほとんどです。

 3は、これからめざすべき姿だと思います。そこに生活する人が地域を愛し、そこの文化をいいものだ、と思わない町が発展するわけがありません。マッケンジーさんが昭和34年に愛した野尻湖の姿は、どんなほかの湖や避暑地より魅力があった、と思います。この部分を発展させることを基本とし、歴史や文化をみんなで育てていく町づくりが必要になってきていると思います。これは時代がどう変わろうと変わることないところでしょう。ナウマンゾウの発掘はこうした基盤にたって、町づくりに貢献できると考えています。自らが町づくりに参加していくことが最も重要なことになってくるのではないでしょうか。

 

*プロフィール*
野尻湖ナウマンゾウ博物館 学芸員

 

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