2006年4月春 ● 編集発行 ● 野尻湖フォーラム
 
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野尻湖雑感

宮地力


自分にとっての野尻湖

 はじめて野尻湖で遊んだのは、学生時代に親友に誘われたとき。つまり、もう30年前位になる。その頃からほぼ毎年訪れている。その間に、結婚もし、子供もでき、職場も変わり、一緒に遊ぶ仲間も変わっているが、野尻湖にいるときはタイムマシンで戻ったように、いつもと変わらない湖を見、山を見て、知り合いと会い、ヨットに乗って、カヌーで散策して過ごしている。

 自分にとって、この湖に惹きつけられているいちばんの魅力は、ここでできるヨットだ。ほんとにはじめて乗ったときは、舵を操作することひとつとっても驚きの連続で、また、水上を走ることが気持ち良かった。すぐに、自分で操船したくなり、本を読んだり、自分の大学で開講しているヨットの授業の受講生になったりして(当時、大学の教官だったので、無理を言って頼んだ)、だんだん操船技術も覚え、うまく楽しめるようになった。それまで、アウトドア系のスポーツとはあまり縁がなかったが、その後、カヌーにも親しむようになり、楽しみの幅が広がり、自分の人生への影響は、すごく大きいと感じている。そして、野尻湖で、いつもと同じ太陽と風と景色をヨットで走るとき、なにか、時間のなかで変容している自分と、そのなかで変わらない自分の軸がみつかっているのかもしれない。

 自分にとっては大事な野尻湖だが、これは、偶然ここで始めたからに他ならない。友人が霞ヶ浦で誘っていたら、そこが巣になったのかもしれない。しかし偶然に出会った場所が、こんな良いところだったのも、何かの縁、幸運だったのだと思う。そうして、何か、野尻湖に恩返しは出来ないものかなと思う。自分はスポーツ科学という分野にいるので、スポーツという面から野尻湖のことを考えてみたい。

水辺教育の場として

 日本は海洋国。海に囲まれ、川、湖も多いといわれながら、その水辺活動の教育はもう危機的状況を通り過ぎている。まず、小学校では、臨海実習などは行なわれなくなっている。危ないということと、先生の不足等がひとつの原因だし、また、プールがあればそれでよし、ということもある。そして、水泳の授業自体、学校の先生は放棄してしまっている。スイミングに行っている子供と行っていない子供の格差が激しくて授業にならないんだそうだ。だから行っていない子供は、学校にいてもいつまでも水泳を覚えない。毎年の夏の水死者の数だって、信じられないほど多い。水辺教育は、泳ぐこと(体育)だけでなく、安全(家庭)、自然の理解(理科、社会)など総合的にやらなければいけないものだ。

 野尻湖は、ナウマン象の発掘のプロジェクトも含めて、すでにさまざまな水辺教育が行なわれている場所である。また、湖という安全な場所であり、周辺の自然も豊富、カヌー、ヨット、ボートを覚えるにも最適な場所である。ぜひ、周辺の大学、信州大学、上越教育大学、新潟大学等と地元が共同して、水辺教育のセンターを作ったらと思う。水辺の授業では、ヨット、カヌー等、さまざまな道具を使うとなると、それらの準備がいちばんの負担になる。それらを共同で保管、利用するようにしたら、効率的にできるだろう。そうすれば、周辺といわず、関東一円からでも利用できる。保管、管理自体も教育活動のひとつとして捉えればよいのではないだろうか。教育センターといっても、まず建物をなどと思わずに、地元と大学等がうまく補って活動できる場からはじめるのがよいのではないか。

ゆっくり楽しむ場として

 ウィンダミア湖の木製ボート次に,水上交通の整理を出来ないかと思う。野尻湖程度の小さな湖なら、ボートくらいが楽しむのにはいちばんである。大きな観光船でぐるっと見て回っても、身の回りの自然や、水に親しむことは難しいと思う。大きな動力観光船はなしにして、手漕ぎボートのバラエティを増やしたり、小さな動力船でゆっくり走るくらいにしたらどうだろうか。湖のボートというと、お決まりの手漕ぎボートや子供だましの白鳥だが、風に弱いし、漕ぐ力がうまく伝わらない。小さいカヌー、カナディアン、オールのしっかりしたニス塗りの手入れの行き届いた木のボート、箱型のヨット等があると楽しみ方もいろいろできる。イギリスのウィンダミア湖には、小さいクラシックな蒸気のボートがあって、お茶を飲みながらゆっくり走るのが人気で、予約でいっぱいだそうだ。舟小屋さんに、このボートの写真のある本がある。年配の方にはこういう楽しみも良いと思う。まずは、動力をなしにすると、船上でも話が出来て、周りを楽しむ余裕がでてくるのではないだろうか。

 日本の造船の技術は素晴らしいもので、江戸時代の檜垣廻船は,神戸と江戸を50時間かからずに行けたという記録がある。当時の船を再現することは難しいとしても、野尻湖にバラエティのある非動力船が各種あり、それに乗って楽しむ事等ができれば、訪れた人の受ける印象も違うのではないかと思う。野尻湖へのアクセスも昔より格段に良くなっているのだから、より独自の魅力をもった湖として、固定客を確保することが必要と思う。先の水辺教育とも含めれば、子供は水辺教室に放り込んで鍛えてもらい、大人はゆっくりと湖との時間を楽しめるというような環境である。  日本は昔から海洋国と言われ、産業としての船や港は発達していたが、遊びとして水場は捉えられていなかった。そのため、遊びの船のための法律もないので、地元の水産業とは敵対関係になってしまうことが多い。野尻湖でも釣りの問題、生活との問題等はいろいろ耳にするところである。しかし、まだまだ水辺をよく観察すれば、自然が残っているし、また、自然の脅威や怖さを身近に感じることができるところでもある。ぜひ、湖を大事にして、遊べて学べる環境と、地元と野尻湖との良い関係を作っていきたいものである。

おわりに

 いつまでも子供のつもりで、野尻湖で遊んでいて時間が過ぎていった。これから先、10年、20年、野尻湖とどうつきあっていけるのだろうか。私のささやかな夢は、湖畔にボート小屋を建てて、野尻湖のボート小屋のおやじになることなのだが、いつ実現することだろうか。

 

*プロフィール*
国立スポーツ科学センター研究員 スポーツするならヨット・カヌー、好きなものはラモー、ワーグナー、セルバンテス、Mac

 

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題字:前田道雄
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