2006年7月夏 ● 編集発行 ● 野尻湖フォーラム
 
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かけがえのない財産

堂本右美


 私は美しい自然の魅力に満ちあふれた野尻湖が大好きだ。それはいつも、自分がこの大きな宇宙の中のちっぽけな存在なのだという事を思い起こさせてくれる場所だからである。ハイテクのリゾートにすっかり飽きてしまい、皆(若者達でさえ)が自然への回帰に目覚め始めている昨今、私の野尻に対する愛着心は増すばかりである。人工的なリゾート地は日本中どこにでもある。しかし私は野尻湖には自然を愛する者が遠く離れた地からでもはるばる足を運びたくなるような、そんな特別な場所になってほしいと願っている。

 私の野尻との出会いはかれこれ40年程前にさかのぼる。両親が桜ヶ丘に山小屋を建ててくれたお陰である。以来、毎年四季を通じて訪れている。その間に私は多くの友人を得て、野尻の、野尻ならではの自然の楽しみ方を数々教えてもらい四季折々の山々や湖を満喫することが出来てきたことをとても感謝している。

 野尻湖では水泳の他いろいろな水上スポーツが盛んだが、私はやはりカヌーやヨットが好きだ。息子達は今ウインドサーフィンに熱中している。動力の力を借りずに風の力を使って水面を滑るあの爽快感は絶妙である。水面に走るさざ波は風の足跡。帆はその風をつかみ自由に湖上を彷徨う。どれも管理が大変な機材ばかりなのでレンタルでやらせてもらっているが、野尻にはそんな施設がたくさんあるのでありがたい。手漕ぎボートやカヌーに乗って目線を水面に近づけると自然との距離は縮まりすっかり水鳥になった気分だ。

 打ち寄せる波にプカプカ浮かびながら進む水辺には陸からは決してみられない美しい景色が望める。水面に首を垂れて生えている岸辺の木々やその下を泳ぐ小魚、そしてセキレイの美しい囀りや波の音を聞きながら、妙高山の麓にゆっくり沈む夕日を眺めるゆったりした時間は、私の心を癒してくれる。

 このようなすばらしい感動や発見が野尻湖にあるということをもっと多くの人に知ってもらいたいと思う。そして手軽に野尻の自然に親しめる環境を増やせると、もっと良くなるのではないか。

 今、現存するあの美しい『象の小径』のような遊歩道をさらに充実させるのもいいだろう。それは野尻湖の地形がかなり急勾配なこと、岬が入り組んでいることで難しいのかもしれないが、もし湖畔を一周出来る道があれば、素晴らしいハイキングコースになるだろう。湖畔に腰をかけられるような公園を作るのもいいだろう。今の野尻の湖畔には景色を眺めたり、水と戯れられるような湖岸がほとんどないからだ。遊覧船は湖の規模にあった大きさに縮小してもいいのではないか。

 この野尻湖が太古からの古い歴史を持ち、この広い長野県の中でも有数の美しい自然が残された貴重な場所だからこそ、日本中探してもここにしかないリゾートを目指してもいいのではないか。  行政に任せるだけではなく、個人一人一人の責任としてもっと話し合って、知恵を出し合うことが大切であろうと思う。

 何処にでもあるリゾート地となってしまうこと、この美しい野尻湖の自然を失うことの怖さを深く心に留めなければいけない。かけがえのないこの財産を失うことはいかにも残念だからである。

願わくば、四万十川の清流に人が集うようにこの野尻湖が世界遺産に準じるオアシスとして世界中から人々が訪れるような癒しの場になることを切に祈りたいと思う。

 

*プロフィール*
1960年 パリ生まれ。東京在住。画家。

 


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題字:前田道雄
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