2018年7月夏・編集発行・野尻湖フォーラム

童話館だより(2)
「黒姫ものがたり」の歴史と舞台を訪ねて

黒姫童話館館長 北沢彰利

黒姫と竜のものがたりへ

 さて、時代が進むと黒姫と竜との物語は、ふたりのつながりを深めてふくらみます。大正期発行の『下高井郡史』や『信濃の伝説』では、黒姫を高梨政盛の美しき姫とし、竜は狩衣を着た若者として姫のもとへ通うこととなっています。これを許さない父政盛は、源頼朝から授かった名剣を持って待ち受け、若者に斬りかかります。さすが名剣は、若者にせまりその狩衣を切り裂きますが、命まで奪うことはできません。若者に化身していた竜は、強い風をよびこみ、立ちのぼらせた霧の中へと消え去ります。

 住む世界のちがう黒姫と竜の結びつきを嫌ったのは、政盛だけではありません。竜の世界を支配する竜王も、人間に恋することを認めず、すみかである岩倉池から追い出します。黒姫から遠ざけられ、すみかも追われた竜は、嵐をよんで高梨家領地をおびやかします。

 人々をこの水難から救わなければと思いつめた黒姫は、父政盛に、「自分が竜のもとへと行かなければおさまりません」と訴えます。政盛の夢枕に立った湯殿権現の説得もあり、ついに政盛も黒姫の願いを聞き入れるのです。  ⟩⟩⟩

黒姫山
霧に隠れる黒姫山

 


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