童話館だより（２）
｢黒姫ものがたり」の歴史と舞台を訪ねて

 城を出た黒姫は、越後境で白髪の翁に会い、求められるまま父よりあずかった名剣を自身の黒髪をそえてわたします。翁がその剣と黒髪を竜のひそむ池に投げ入れると、水は赤くそまり、剣を呑みこんだ竜がのたうち倒れるのでした。黒雲につつまれ、雷鳴が鳴りひびく中、黒姫の姿も消えていました。翁が竜の退治がかなったら黒姫に与えると約束したのが、今の黒姫山でした。

 ここに記述されている黒姫は、竜の思いを受けとめるものではなく、一方的な働きかけに困惑しながらも、身を投げ出して城下を守るけなげな女性です。

 昭和になって発行された『みすゞかる信濃』(1941年)では、黒姫の父が政盛から盛頼と変わります。父盛頼は、黒姫の寝室に近づく美少年を馬で追い、名剣で片腕を切り落とします。人間である盛頼に手傷を負わされた竜は、竜王の怒りにふれ、すみかを追われ、うっぷんのままに暴れ回ります。城下をおそった洪水は、黒姫をも濁流に呑みこんでしまいます。盛頼の夢枕に立った黒姫は、名剣を欲し手にすると、山中にひそむ竜を退治します。竜が流した血は、赤川となり黒姫山のふもとを流れています。  ⟩⟩⟩

琵琶池