2018年7月夏・編集発行・野尻湖フォーラム

童話館だより(2)
「黒姫ものがたり」の歴史と舞台を訪ねて

黒姫童話館館長 北沢彰利

高梨家と竜

 黒姫と竜の話は、残された書や伝えられている地により、少しずつちがいますが、黒姫が中野の高梨家の姫であることや、姫が最後に城を出て竜と向かった山が黒姫山であることは同じです。

 高梨家は、室町時代後期に栄えた一族で、その城は今はありませんが、公園となっている城跡から当時のようすを想像することはできます。私たちが思い浮かべる天守閣がそびえ立つ城とは少しちがうようです。堀と土塁で囲まれた1ヘクタール余りの敷地の中に、いくつかの館が建ち並び、高梨一族や家臣が生活していました。敷地には庭園もあり、鎌倉・室町の文化が北信濃の地にも及んでいたことをうかがい知ることができます。

 さて、黒姫と竜の話は、北信濃の民話のひとつとして、語り継がれてきたのですが、書物の記録として残されたのは、江戸時代末期に佐久の神官井出道貞によって書かれた『信濃奇勝録』(1887年)が最初と思われます。 ⟩⟩⟩

高梨城跡
高梨城跡

 


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