2018年7月夏・編集発行・野尻湖フォーラム

童話館だより(2)
「黒姫ものがたり」の歴史と舞台を訪ねて

黒姫童話館館長 北沢彰利

黒姫山と妙高山
霧の黒姫山と妙高山

 黒姫は、弁財天女となって山の主となったというお話もあります。黒姫山の山頂には、石の祠があります。その石版には「大毘沙門天、黒姫弁財天、七ツ池龍王」と刻まれています。信濃町には、黒姫山を祀る雲龍寺があります。野尻湖に浮かぶ琵琶島にも宇賀弁財天が祀られています。弁財天信仰と黒姫伝説が結びついたことが想像されます。

今も生き続ける『黒姫ものがたり』

 この黒姫と竜のお話ほど、人々を惹きつけ、その時代の彩りを帯びて生き続ける民話を私は他に知りません。自然災害と人々のたたかいという確かな骨格を持ち、黒姫という悲劇のヒロインを得て、悲恋物語としての魅力もあわせ持ちました。

 黒姫山は、標高2053メートルの木々の深い緑につつまれた山です。日本海からの海風を受けて、すぐに霧につつまれる神秘的な山です。山を隠し流れる雲は、ときに竜を想わせます。

 この自然と人々の物語への希求が枯れぬかぎり、『黒姫ものがたり』は、語り継がれ生き続けることでしょう。

北沢彰利
2017年黒姫童話館館長に就任
日本児童文学者協会評議員・信州児童文学会副会長。童話作家(いぶき彰吾)

 


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